これは2月16日〜18日に珍獣3人で福岡のまちを遊び歩いた時の記録である。
何故今更こんな物を書いているかと言うと、自分が何処まで物事を詳細に覚えているのかというふとした疑問と、振り返る暇が無かった哀しさによるもの。
やっぱりいくつになっても、男友達とドタバタするのって楽しいよね。
・はじまり
午前四時、4畳1間の簡素な部屋で目覚める。
本日のフライト予定は朝6時半。
始発から羽田に向かっても間に合うは間に合うのだが、遅延した時のダメージが大きすぎる為、横浜は石川町の妙なホテルで朝を迎えることにした。
ホテル…といっても、どうやらここは日雇い労働者が生活するウィークリーマンションも兼ねているようで、歯磨きの為向かった水場では鬼殺しのビンをコップ代わりに使う全身タトゥーの丸坊主の男とすれ違う。普段ならお兄さんのあまりの威圧感に怖くて震え上がっているが、今日はいつもとはわけが違う。
楽しみ過ぎてロクに眠れなかった体をコーヒーとシャワーで叩き起す。100円を入れるとお湯が出てくる例のアレだ。幸いドライヤーは洗面所に着いていたので、軽く身支度を整えてから部屋を出る。
やはり旅の当日はワクワクする。今回はどんな出来事が待ち受けているのだろうか。
そんな期待を胸に、まだ暗い川沿いの道を進んでいく。
朝焼けに包まれていく羽田空港。
「高所恐怖症なんて男らしくない」と心の中で呟いていても、やっぱり怖いものは怖い。
だが隣の席のお姉さんがフライト中自前のタブレットでプペルを見始めるというあまりの衝撃に恐怖が全て吹っ飛んでいった。
ありがとうお姉さん。
お礼におっぱい揉ませてください。
福岡空港に到着後、上着の襟を調えながら他二匹にもうすぐ着くからと連絡を取り、地下鉄に向かう。その距離およそ3キロ弱。県庁所在地から僅か10分で空港なんて狡いの極みだ。大宮で言うなら与野辺りに空港がある想定になるぞ。羨ましいなぁ…
・再開するばかども
それから博多駅でご存知我が友らデデ公とドガスくんに再開。ドガスくんは相変わらず、デデ公はちょっとだけ肉がついた様子。元々がガリガリだったし、ストレス溜まってるって言ってたもんな。
デデ公とドガスくんの両者は今回が初対面となる。あれだけ通話してきたにも関わらずめちゃくちゃ距離があるのを感じて、少し微笑ましい。
さて、再会を祝して3人でニコニコしていたのもつかの間、ある一つの問題に直面する。
皆予定より1時間早く集まってしまった。
本来ならフライトの都合上早く到着する俺が博多のどこかで1時間潰して、あとから来るふたりと合流する予定だったのに
「「楽しみ過ぎて寝れなかった」」「「待たせるのは悪い気がする」」
と、気を使って来てくれたらしい。
遠足前かオノレらは。
ただ皆で行く予定だったポケセンも、その辺のカフェすら空いてない。結局何もする事がない我々は駅2階のロータリーでバスの発着場を眺めながら「君の膵臓をたべたいでここの風景映ったよね」とか、たわいも無い話をして30分暇を潰す羽目になった。
全く義理堅いんだか、なんなんだか。
・喋れよお前ら
>oo<「〜が〜でさぁ、どがすくんはどうだった?」
☠️「それはねぇ、〜でさぁ」
>o'ω'o<「……」
気の所為だろうか。
俺↔その他単体の会話は繋がるのに、
デデ公↔どがすくんの会話が全く無いのである。
なので必然的に道中のエスカレーターの配置も
>o'ω'o<…先頭
>oo<…真中
☠…後方
となり、完全に俺を経由したキャッチボールが始まっていた。
>oo<(大丈夫かなぁ二人…いやいつも喋ってるから大丈夫だろうけど…ちょっと気遣うか)
かくしてメガネ虫による「初対面二人、仲良くさせよう」キャンペーンが今後勃発していくのだが、道中画策が彼らにバレていなかっただろうか。
気を遣わせてる事に、気を遣わせたくはない。
ちょっと露骨な場面もあったかな…
そんな事を思いながら、エアホッケーでデデドガペア(組ませた)をダブルスコアで叩き潰したのだった。
・ポンコツ人たらし
唐突だが、デデンネという男はポンコツである。
勿論友達として尊敬すべき点は山ほど有るし、同年代の中でもしっかりしてる方なのだが、この旅の最中それを余す所なくポテンシャルを発揮してきやがった。ここで1つ紹介しよう。
ゲームセンターからラーメン屋に向かう途中の事である。
>oo<(それにしてもこいつら荷物多いな、リュックは兎も角大きめのボストンバッグまで…冬服だからかさばるのかな?)
歩いてる前二人のやたら大袈裟な荷物を見て、何が入っているのか少し気になった。
>oo<「お前ら、荷物結構重たそうだな」
☠「メガネくんは旅慣れてるからリュック1つで済むんだろうけど、初心者は何持ってきゃいいか分かんないからな」
>o'ω'o<「やっぱり冬服は嵩張るし、それに遊ぶ用の道具とk…」
>o'ω'o<「………………」
>o'ω'o<「あれっ!?」
>oo<「どした?」
☠「そういえばお前…」
>o'ω'o<「まりおかの場所にボストンバッグ置き忘れた!!!」
>oo<☠「「待ってるから早く行ってこい!」」
笑い半分/心配半分な我々を尻目に、彼は博多駅で風になった。
場所の目星は凡そ付いているし、時間も経ってないから大丈夫だろう。
それにしても…
どちらかと言うとデデ公の奴は完璧主義者寄りで忘れ物を諌める側だと思ったのに、まさかあんな自分から目印にしたクソデカバッグ(星条旗カラー)を忘れるなんて。
ちょっと意外だった。
やはり一緒に旅をするとその人の理解度がより深まるものなのかもしれない。
そんな事が浮かびながら、ドガスくんと来た道をのんびり引き返した。
・続 ポンコツ人たらし
☠「あいつは予想を裏切らねぇな」
>oo<「意外としっかりしてるように見えて根はポンコツなのかもしれないな」
その後マックの前でドリンクをぶちまけガン萎えしてる客を尻目に「あの光景は忍びねぇな」などと話しながら待っていたのだが、ふとドガスくんが急に隣でモゾモゾし始めた。
☠「そういやメガネくん、幾ら?」
あ……?
なんだこいつは。唐突に金の話をして。
幾ら……?
俺の菊の花を売れと言うのか。
若干怯えながらも鞄からおもむろに財布を出す彼を見守る。
>oo<「……何が?」
☠「前回延期した時にキャンセルしたホテル代よ、さすがに申し訳ねぇからあいつ居ないうちに払っとこうと思って」
>oo<「うん……?あぁ〜……?」
実はこの旅行は一回やむを得ない理由で延期を挟んでいる。その時に予約したホテルの事を指しているのだと、ようやくここで理解した。
>oo<「えっとね、あいつが体調崩してから直ぐにキャンセルしたから料金かかってないんだ」
☠「ああ〜そうだったんだ」
>^^<「でも俺の前回の飛行機のキャンセル代なら払っていいよ!あれは確かね…」
☠「ばか、それは流石にちげーよ!」
内心、驚かされた。
こちら側から切り出していない支払いの話を自ら触れてくるとは思わなかったのだ。
舐め過ぎだろと思われるかもしれないが、経験上仲の良さにかまけてなあなあになってしまうパターンも起こりうるからこそ余計に意識した。
それにちゃんとデデ公に気を遣って、彼が席を外したタイミングで見計らっての発言だ。
素晴らしい。流石に大人の男だ。伊達に社会人張ってない。
まぁこのくだりは通話で一度済んでる話なのだが突っ込むのは野暮だろう。忙しくて忘れちまったんだな、うん。
人知れずドガスくんに対するこだめがポイントが高まっていた内に、息を切らせながらボストンバッグを抱えたデデ公が帰ってきた。
こいつも皆を待たせたら悪いからと全力で走って帰ってきたのだろう。額に浮かぶ汗がその証拠だ。
知らず知らずに俺の好感度を上げやがって…
人たらしな奴らだ。
・豚と骨、馬と鹿
(博多駅ナカの名島亭。醤油豚骨の濃い味が明太ご飯の消費スピードをより加速させる。デデ公の行きつけらしい。)
>oo<「豚骨ラーメンを食うと福岡に来た実感が湧くな」
☠️「にしてもデデくん全然箸進んでないけど…ここ貴方の行きつけなんですよね?」
>o'ω'o<「いやぁ皆を待ってる間牛丼(大)と温玉食べちゃって…」
>oo<「はぁ!?」
馬鹿なのかこいつは。
☠「朝飯なら喫茶店とかでいいだろ」
>o'ω'o<「いやコスパを考えるとさ、高いじゃん」
>oo<「そういうものかぁ?」
〜完食後〜
>o'ω'o<「あっ……お腹痛い!!!!」
馬鹿なんだろうこいつは。
何でお金払ってまで自分の体を痛めつけてるんだこいつ。
☠「デデ君のトイレ入ってる累計時間タイマーで測ろうぜ」(コソコソ)
馬鹿なんだろうなお前も。
ホテルの入口分かんなくて15分間さまよい歩いた俺も大概なんだけどね。
・珍獣、はしゃぐ
荷物をホテルに預け、地下鉄に乗って10分。
向春の暖かな陽気が三馬鹿トリオを迎えてくれる、ここは博多の大濠公園。
寄り添うカップル、はしゃぐ子供。久々の運動で息切れする父親と、それを遠目から見守る母親。この世全ての幸福に包まれていた様な、穏やかな雰囲。そんな平和な大濠公園のド真ん中で、奇声を上げながら爆速で池を泳ぐ1隻のアヒルボートが居た。
道中ノリで借りてしまった以上、全力ではしゃぐのが対アトラクションにおける最大の礼儀だ。
皆に笑いを届けに行くぞ。
いざゆけ珍獣軍団。
>◎◎<「うおおおおぉもっと漕げお前ら!目立て目立て目立て!!!!」
>o'ω'o<「ぬああ〜^」
☠「まずい!前方にオリジンナンバーズ(意味不明)の集団だ!躱せ!」
>◎◎<「ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ッ座礁するゥゥゥゥゥゥッ!!!!!」
バキバキバキバキッッッッ!!!!!
>o'ω'o<「勘弁してくれよ……」
30分の間、我々は風になった。
案の定、デデ公は船酔いした。
ボートを返却し、公園のカフェまで戻ってきたのでひとまず休憩する事にした。
俺とドガスくんはスムージーを、彼にはボトルのミネラルウォーターを。スムージーの具材と調理の最中を興味深そうに眺めるドガス君にドリンクの受け取りをお願いし、う○こ爆発3秒前みたいな鬼の形相をしている彼に近寄った。
>oo<「ほら、もっと日陰の所に来いよ」
>o'ω'o<「いや大丈夫……大丈夫だから……」
誰がどうみたって大丈夫ではなかった。
ただ幸い天気も良いし風も心地良い。
暫くドガスくんと一緒にスムージーを味わっている間にデデ公は一人ふらふらと立ち上がり何処かに行ってしまったが、時速0.5キロほどの超鈍スピードで川辺の魚を眺めているのを確認したので、とりあえず気分が良くなるまで放っておこう。
腹痛に乗り物酔い、可哀想な位バッドステータスを持って産まれた男だ。
彼の生まれ持つ星に両手を合わせながら、軽くボート小屋の売店を一瞥するとそこはビタミンカラーの応酬。子供用のゴムボール。
それからラケットにフリスビー……
フリスビーだと……?
>oo<「赤色のフリスビー1つください」
考えるより先に体が動いていた。
こんな楽しいもの売ってたら買わないわけにはいかない。
>o'ω'o<「うわぁ(絶望)」
☠「これは俺らお金出さないからな!」
何言ってんだお前ら。
公園遊びはフリスビーが1番って相場が決まってるんだよ!
〜30分後〜
>o'ω'o<「あーっ!ごめん曲がっちゃった!」
☠「墜落前のUFOみたいだな」
>^^<「大丈夫、取れる取れる!!」
軽く公園を散策した後。
あれだけ嫌がっていた2人も案の定というか、始まったら始まったでフリスビーではしゃぎ始めた。もう我々もこの幸せ空間の一部である。
こんな仲良さげな男達がネットのゲームグループで知り合ったとは誰も思うまい。
徐々に伸びゆく影と共に、ただ春の野の獣の様に原っぱを駆け抜けた。