以前書いたはいいが小っ恥ずかしくて封印してた記事です。
エモさん復帰おめでとうということでひとつ…
昔、Lotus名義で洋楽のレビューブログを立ち上げていた時期があった。
勢いだけで書いた文章。
音楽知識も皆無など素人が書いたものなので読んでくれる人は少なかったのだが、続けていくと来訪者が10人、100人を超え、いつしかコメントまで残してくれる人まで現れた。
「Lotusさんの言いたい事分かります!ここのこの表現が素晴らしいですよね!」
「ありがとうございます。この表現は歌詞の世界観を〜…」
そのやり取りだけで嬉しかった。
分かり合える友達が増えたように思えた。
けれどそれはブログ内でのやりとり。
実際に会って話そうという気は全く起きなかった。
それが今では、ネットで知り合った人と一緒に裸になって、これから風呂に入ろうとしている。
人生というものは案外、分からないものだ。
瀬戸内エモムシ探検隊 後編
(o'▽'o)「メガネくん、そろそろ行こうか?」
エモさんの声を耳にして、僕は果てしない青が支配する海岸線を、少し名残惜しみながらも立ち上がった。
駅へ寄る途中、コンビニに寄った。「水分補給は大事だからね」とまるで保父さんのように優しく語る。「いい大人なんだから大丈夫っすよ」と軽く笑い、僕は目に付いた香川限定のコーラ瓶を買って来た。
じゃちょっとトイレに行ってきますと彼に告げ、改札まで戻ると彼がビニル袋を吊り下げていた。
(o'▽'o)「いいもの買ったから電車の中で食べようね」
と言う。相変わらずこの人はサービス精神旺盛だ。温泉に向かう車内で買ってきてくれた「むかん」を一緒に頬張った。
>^^<「あぁ〜冷ってぇ〜」
(o'▽'o)「凍らせた蜜柑ってなんか給食を思い出すよね」
8月末。車内は冷房がかかっていたとはいえ、外気温は37度を越す勢いだ。汗ばんだTシャツをパタつかせながら、何気ない会話をしてまったりとした時を過ごした。
宇野駅。
到着したのは昼過ぎだった気がする。
なんでも「美術の街」と謳っており、駅には次元が高すぎてよくわからないモニュメント郡が立ち並び、駅舎にも幾何学模様の様な直線がペイントされていて、「ののちゃん」の作者の街!と書かれた微かに汚れた旗が海風に煽られてぱたぱたしていた。
(o'▽'o)「昔は連絡船のりばとして栄えてたんだけど、今はもうやってないからね…」
まるで異国の発展途上の街並みの様な人気の無い駅周辺を見回しているとエモさんが解説してくれた。
なるほど、少し歩くと船の発着場らしき場所が見えてきた。その他色々と説明してくれたのだが…正直真夏の真昼に立ち尽くすのは地獄にも程があった。海風は気持ちいいのだがいい加減暑さにくらくらしてきたので、ケータイの地図を頼りに温泉地へと足取りを進めた。
温泉地へ向かう途中、工事現場があった。
汗水かいて働く作業員を「大変そうだなー」とぼけっと眺めて歩いていたが、エモさんは違った。近くにいた作業員に「ご苦労様です」とにこやかに挨拶を交わした。
えっ!?と思った。
確かにとんでもない気温の中で作業をしているのだ。大変に違いない。でも僕は話しかける勇気すら出ずのんきにスルーしてしまった。
サラッと言うもんだから僕はびっくりしてしまい、(この人の中では日常なんだろうな…)と感じた。
これが本当の優しさなんだな、と思い知った瞬間であった。
>◎◎<「これ本当にお風呂屋さんの外観なんですか…?」
丁寧に刈られた植え込みと厳かな門構えに僕はたじたじになり、なんとなくNARUTOの日向一族の集落の様に思えた。
大人しく門を潜る。
石畳を少し歩くとそこには「日向」の文字の欠片も無く、しっかりとたまの湯と表記された、今流行りの古民家カフェの様な外装が見えてくる。
壁にかかった農耕具と薪の束を見て、思わず牧場を経営している岩手の親戚の家が思い出された。
(o'▽'o)「メガネくんは靴箱の番号何にする?」
館内に入った時、ふとエモさんが聞いてきた。
>oo<「うーん…?そうですね…」
別に靴なんて入れればどこでもいいと思っていたが、彼が好きな野球選手の背番号に入れたと聞いたので、ここはあえてエモさんの真似をしてみる。
個人的に子供の頃から上原浩治が大好きだったので19を探してみると、「019」の文字が見えた。
これじゃあ育成選手じゃないか…
心の中で軽く舌打ちしながらも、大人しく靴を下駄箱に入れた。
セミのなく声をバックに和風の館内をすり足で歩くと、高校の弓道部時代を思い出す。
いい三年間だった。
飽きもせず的前に立ち、静かに己と対峙する時間は何よりの贅沢であり、弓道場で過ごした同期との時間はかけがえの無いものだった。
皆とはよく卒業後も会っていたのだが、フリーター生活になってから自然と連絡を取ることをやめていた。
置いていかれたのが悔しかったし、何より家庭の事情とはいえこんな惨めな状態に陥っているのを知らせたくなかったからだ。
皆は今順当に行けば大学四年生か…
就活、頑張っているかな。
俺は…俺は、何してんだろうな。
少し胸がちくりと痛みながらも2階へ上がり、脱衣場までやってきた。
もじもじしていると、エモさんがお先にとタオルを抱えてガラス戸を開け始めたので、いそいそと汗が染み込んだ服をビニル袋に突っ込んで同じ様にガラス戸を開けた。
右側からびゅうっと風が吹き、7対3に分けられた前髪をふわりと揺らした。
潮だ。外気の香りが鼻を擽る。
https://www.seto-tamanoyu.jp/bath
どうやらここには内湯という概念は無いらしい。棚田の様な段差上の広い湯船の先に、3つの五右衛門風呂と日射を遮る東屋のような湯船が見える。ワクワクした気持ちを抑えながらもとりあえずマナーは遵守だ。
身体を洗う事にして、左手の洗い場にたどり着く。既に裸眼のエモさんが髪を洗っていたので、隣に座ろうかなと思ったが少し気恥ずかしくなり、結局斜め向かいの椅子に座る事にした。
一頻りシャワーで身体を清め終わると、後ろからエモさんが話しかけてきた。
(o'▽'o)「あーっと、メガネくん?」
>oo<「ああ、エモさん。風呂、入ります?」
(o'▽'o)「ごめん、わし眼鏡外すと何にも見えなくなるからちょっとゆっくり歩くわ」
のしのしと歩く彼を先導させ、棚田の様な湯船に浸かった瞬間、ダミ声の様な汚い声を2人同時に発した。
「ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙。」
なんて開放的なんだろう。
身体がただ、沈んでゆく。
時間も。
仕事も。
仲間も。
その一瞬だけは、何もかも忘れさせてくれた。
(o'▽'o)「いやー気持ちいいね…」
>oo<「このクソ暑い天気の中、クソ暑い風呂に浸かるのも悪くないですね…」
(o'▽'o)「とはいえちょっと暑いな、向こうの屋根かかってるところは結構ぬるめだし海も見えるから、移動しようか」
>oo<「ほな行きまひょか」
またしても裸の2人はドラクエの様にぞろぞろ隊列を組み、東屋のような湯殿に入った。
気持ちいい。海が間近に見えて、風が直で火照った身体を冷ましてくれる。
ぼーっとしたのもつかの間、不意にエモさんがこちらに顔を向けた。
(o'▽'o)「メガネくん…最近はどう?上手くやれてる?」
>oo<「そうですね…まぁこの半年色んな事件が起きて困惑してますけど…やっぱりね…」
どうしよう。
僕は迷った。
ここで心の内を全てぶちまけられたら、どれだけ楽か。でも嫌がられたらどうしよう。それにこんな事を話したら、距離を取られてしまうだろうか。
長い沈黙が流れた。
でも…。
オフ会の時に誰にも何も言わずトイレ掃除を黙々と行っていた姿僕の為に一から旅行の計画を立ててくれて、暑いだろうに一緒にタイへの餌やりを長々付き合ってくれたエモさん。暑いだろうと気を使って買ってくれた冷凍みかん。そして作業員に挨拶した姿が。
フラッシュバックした。
ああ。この人は、信用していい人だ。
心の底から安心したのもつかの間、
つい口が、心の中のドロドロとした気持ち悪い概念が、身体の中から留めなく溢れてしまった。
>oo<「ちょっとここだけの話…長くなるんですが…良いですか?」
(o'▽'o)「良いよ ゆっくり喋りな」
>oo<「実は…」
「そうですね…」
後先考えず、言葉が口からまろびでる。
「親父が…事業失敗して…元々夫婦仲も良くなかったんですが…それでっ…母親は出ていって…俺も親父を見限ろうと思ったんです…
でもね…親父が俺を抱き締めながらごめんなって…謝ってきたんです。親父の涙を見るのはそれが最初で…俺も…悔しくなっちゃって…」
それから長い間、抱え込んでいた全てを喋った。
仲間に遅れをとったこと。
大学時代、目指していた職業のこと。
バイトと受験勉強が大変なこと。
金を返してくれない友達のこと。
エモさんは拙い俺の話を、自分の身に起こった出来事を織り混ぜつつ、懇切丁寧に受け止めてくれた。
潮風が気持ち良くて、顔を上げた。
陽は少し、傾き始めていた。
[エモさんへ。]
[ここで伝えるべきことじゃないとは分かっているけど、あの時は俺の話を聴いてくれて、ありがとう。あなたに相談して無かったら、今の自分は無かったと思います。]