珍獣旅行第一夜 後編

 

ホテルに帰還した我々は先程の汗を流す為、最上階の大浴場に向かった。

いままで散々遊びまくったが、今回の旅のコンセプトは「高級ホテルの最上階で下民を見下しながら乾杯する」こと。パッと見悪趣味にも程があるコンセプトだが、我々はこの機会を1年間待って高いお金を払ったのである。このホテルを骨の髄までしゃぶり尽くさないと気が済まない。

キャラには合わないけど、ナイトプールにだって入っちゃうもんね。

折角だし、下見もしに行こう。

最上階に到着すると、流石高級ホテル。

眼前にガラス貼りの豪華なプールが広がっていて、まだ夕方だがそんなことは関係無いとばかりに腰まで水に浸かる男とプールサイドのベンチに足を伸ばし、カクテルを嗜む水着の女性らが優雅なひと時を過ごしていた。

よ……陽キャだぁ〜!!!

我々は本当にこの後キラキラした陽キャの極み空間に入室し、本番の真夜中にアンちゃん達と同じような事がパリピ的行為を行えるのだろうか。

…というと否!

あまりの恥ずかしさに入ることが出来なかった!

これも目当てのひとつだったのに!

やれ「寒いから」とか「水着が面倒」とか「男三人居ても仕方無い」とか三者三葉色んな理由を取ってつけて「機会があったらまた行こうね」とすげ帰ったが、実際の所…

ただ入るのが恥ずかしかった…。

 

ナイトプールから目を逸らし、そのまま大浴場の更衣室で裸一貫になる。

そういえば部員とお風呂に入るのも最早(個人的には)定番になってきた気がするな。

昔エモさんと行った瀬戸内の温泉から始まり、フロくん、マリくん、みなとくん、だーすー、ザラスくん(未遂)、そして今回はデデ公とドガスくんが追加される訳だ。ひょっとしたら一番部員の棒を見てきた男なのかもしれない。

いやだなぁ。

そんなきたない事を考えながら一人湯船で脚を伸ばしていると、ドガスくんがタオルを肩にかけて大股おっぴろげてやって来た。

なんてデカくて男らしい奴なんだ。

しかしその後腰にタオルを巻いて小股でやって来たデデ公に「男らしくねぇ」と説教を垂れ始めた。

なんてクソほど器の小さい奴なんだ。

別にそんなの個人の勝手だよな?

言い返してやれデデ公。

「だってこの中で一番小さいの絶対俺やもん…」

いや、そういう問題じゃないだろ。

 

 

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風呂上がりに部屋でドガスくんと買ってきた缶ビールで乾杯した。彼の有能な所は風呂に行く前にグラスを冷蔵庫でキンキンに冷やしてくれた所である。そんな気遣いどこで学んできたと聴くと

「昔、ちょっとね」

と照れ臭そうに語っていた。なんだそりゃ。

ナイトプールには行かなくなってしまったが、気頃の知れた連中とお部屋の中でだべりながらゆっくりするのもまた格別だ。

しかしお酒を飲んでまったりしていると、今度は何だか眠気が襲ってくる。早朝から集合してから遊び回って今に至るから仕方ない所はあるけれど…流石に寝るのは勿体無い。

そんなこんなで我々は当初の予定より早く、下民を見下す為に福岡タワーへと向かい始めた。

 

・ろーどとぅ福岡タワー

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デデ公から教えられた通り、最寄りの西新駅から向かう道は学生街の要素を含んでいる様だ。博多のイメージからはちょっとかけ離れた赤レンガ作りの古式ゆかしい学び舎の道を抜けて、長谷川町子キャラクターの銅像が立ち並ぶ「サザエさん通り」を突き抜けていく。

道中、やれ「この立地には住みたくない」だの「引越す時の条件は」だの、中身がある様で無さそうな下らない話をしながら三人笑顔でタワーまで歩いて行った。

 

ここから先、地獄が待っているとも知らずに。

 

 

・珍獣、こわれる

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>o'ω'o<「タワー入館120分待ち!!!!????」

 

素っ頓狂な声が館内中に響き渡る。

この日はなんと「新成人応援キャンペーン」の日。新成人の入場料金が通常価格から90%近い大幅な割引を受ける特殊な日と被ってしまったのだ。

当然デートコースに持ってこいなスポットであるここは若いカップルでごった返し、最早同じフロアのハローワークコーナーにまで行列が突き抜けるかというレベルにまで陥っていた。

 

>o'ω'o<「ど、どどどどうする……?待つ……?」

 

一番テンパっていたのはデデ公であった。

それはそうだろう。今日の為に切符や場所やレストランまで全て調べていてくれたのだから。

 

☠️「まあまあこれは仕方ねぇよな!」

>^^<「せっかくだしタワーの前で三人の自撮り撮ろうぜ!」

 

我々は絵に書いたように落ち込む彼を慰めるのに精一杯だった。

 

☠️「とりあえず晩飯何にスっかぁ」

>o'ω'o<「あっ!そしたら僕がよく行く天ぷら屋さんが有るんだけど、そこ行きません?今日営業中らしいから大丈夫だし」

>^^<「よしそこにしよう!おぅ天ぷらドラフトやろうぜ!俺舞茸な!」

 

流石に2時間若いカップル連中に混ざって待つのは辛い。

福岡タワーで下民を見下す事も、塔の中枢で営業しているビストロにも行けなくなってしまったが、友達となら喋りながら散歩するだけでも楽しいものである。

 

>o'ω'o<「あそこは良く友達と行くんだけど、特に天ぷらも…何より明太子が食べ放題だし……」

 

サクサクの美味しい揚げたて天ぷらが食べられる事を期待して、我々は来た道とは別の、仄暗く気味の悪い団地通りを会話しながら引き返して行った。

 

 

 

 

 

今思えばこの鬱屈とした雰囲気もフラグだったのかもしれない。

 

 

 

 

 

 

〜点検の為、店休日とさせて頂きます〜


>o'ω'o<「ええっ!??!!?!?!!??!!!?」

 


ようやくご飯にありつけるとウキウキで天神駅に降りたのも束の間。

腹ペコの我々を待っていたのは、天ぷら屋さんが入っている商業ビルのメンテナンスの報せだった。

つまり急遽お休みになったらしい。

 


>o'ω'o<「はぁっっ……でっ……ええっ……?いやそんな事ある……?」

 

余りにショックだったのだろう。

FXで有り金全部溶かしたような顔でビルの周りをぐるぐる歩き始めた。

 

>oo<「ヤバい……リカバリーしないと(ドガスくん何か一言言ってくれ)」

☠️「………………」

>◎◎<「ああっ持病入った!!!」

(持病……ドガスくんは1時間に15分の割合で無言になる傾向がある。)

>◎◎<「デデ公待て!ここら辺に昔行ったピザ屋があるから行かねぇか?」

>o'ω'o<「……う、うん」

>oo<「えっとたしかこの辺に……あった!このビルだ!」

 

〜点検の為、店休日とさせて頂きます〜

 

>◎◎<「……へっ?????」

 

何も言葉が浮かばなかった。

別の商業ビル内のテナントであるにも関わらず、たまたま二件連続でビルのメンテ日が被ってしまったのだ。

 

 

 

>oo<……全てがどうでも良くなる

>o'ω'o<……冷や汗出っぱなし

☠️……白痴の如く無言。

 

 

 

 

これを専門用語で「王手」という。

 

 

 


悲しいかな、大型商業施設が二件もこんなんだからか天神周辺の飲食店は安いチェーンすらほぼ満席。見渡せば見渡す程この状況が積んでいるという確認でしか無くなってしまった。

失意の最中天神駅に戻り、とりあえず博多に帰ってご飯屋さんを探そう…と思った矢先。

 

 

 

またしても事件は起こった。

 

 

ホームで列車を待ちながら、お店を探していた時。

 

 

>o'ω'o<「ドガスくん、ここどう思う?」

 

>oo<☠️「……?」

 

>o'ω'o<「ここなんだけどさ」(ズィッ

>◎◎<☠️「「おいその人違う人だから!」」

 

何とデデ公、お腹がすき過ぎたせいか幻覚を見始めた。

後ろに並んでた似ても似つかぬ全くの別人にスマホのスクショを突き付け始めたのである。

 

>oo<(おかしなっとる……)

 

その後電車の中で「博多」の焼肉屋の予約を代理で取り、何とか彼の魂をウツシヨに引き留める事に成功した。

 

博多に着いてからは最早、無言であった。

焼肉の事を考え、焼肉以外の煩悩を捨て、ただひたすらに歩を進めた。

ようやく晩飯にありつける。

 

 

 

はずなのだが……

 

 

 

 

>◎◎<「ええっ!?予約取れてませんか?!」

店員さん「あの、もしかしてお客様が取られた店舗は他店舗のものなのでは……」

 

>oo<「あっ」

 

なんとこの男、腹が減り過ぎて「博多」の文字だけ見て他店舗に席予約を入れてしまった大戦犯だったのである。

 

まずい…

このままでは本当に何も食えずに帰る事になる。どう考えてもミスった自分が100%悪いのだが空腹過ぎてなりふり構っていられなかった。

とうとう俺はキレた。

キレてしまったのだ。

 

>◎◎<「あのー大変申し訳無いのですがそしたらあのですね私別店舗の予約を今から取り消しますのでこの店に新たにフリーとして新規で入れてもらうことって可能ですかね無理なら無理で全然お気になさらず大丈夫ですんで(早口)」

店員さん「あっ⋯⋯(察し)ただいまお席作りますので少々お待ちください」

 

大方奴さんもキ○ガイご新規三名様を入れたくは無かったのだろうが、暗黒タマタマの様な形相をして突っ立っている男たちを相手取るには彼女は少々役不足だったようだ。数分もかからずにOKが出た。

 

通される。

 

席に付き、水を飲み干す、無言。

 

モニターを触る、ご飯大3つ、無言。

 

肉が来る、焼く、口に突っ込む。

 

カルビ5人前。

 

肉が来る、焼く、口に突っ込む。

 

タン5人前。

 

一時間経って、誰かが口を開いた。

 

「次の肉、注文しとこう」

 

 

 

…これは食べ放題制限時間90分のうちに交わした、貴重な会話の一つである。

 

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──あまりにも食べる事に夢中過ぎてホテルに戻る道で脇腹を抱え博多の夜の風になった男と、携帯電話を店に忘れ取りに戻った男が居たのは語らないでおこう。