陰キャVS中洲 (福岡旅行 第一夜)
先日、ふと前のスマホのメモ帳を見返したら、去年の秋(10月31日〜11月4日)
山口に転勤した友達の家を訪れるために3泊4日で福岡〜山口を旅行した時の大まかなタイムスケジュール&軽い日記を発掘してしまいました。
このまま埋もれさせるのもなんだか非常に勿体ない気がしたので、とりあえずこのメモを元に大型改造してブログに載っけてみることにしました。
旅の行程としては
第一夜〜二夜 福岡編
第三夜〜四夜 山口編
となります。
そして唐突ではありますがポ部の皆様、今までブログを読んでくださった方々なら既に周知の事実ですが、
僕は変人です。
なので旅の内容も文章も通常のそれとは違い、大分ヘンテコな感じに仕上がってしまいました。
それさえ良ければ、どうか最後まで御付き合い下さい。
午前 大学にて
黄葉揺らぐ朝焼けの中、数いる学生の中でも一際目立つクソデカいリュックを背負って登校する1人の男子大学生が居た。
黒色の登山用リュックの中には必要最低限の着替え、充電コード、1日分の教科書諸々が詰め込まれており、積荷とリュック自体の重みで普段使用してる物と違って肩にとてつもない重圧を感じていたが、気分だけは軽やかだった。
なんせこの日は人生で初めて九州上陸する日である。
(とりあえず到着したら豚骨ラーメン食べて…あと出来れば夜中居酒屋かなんかで呑むのもいいなぁ)
等々、まだ観ぬ未開の地に様々な思いを馳せ、もう心中穏やかでは居られなかった。
さて、当然ながらこの日は朝から忙しかった。
実際フライトは夕方だから食堂でお昼をとってからでも余裕で間に合うのだが、なにせ旅行に行ってる間授業のプリントを僕の分まで取ってきてくれる様、僕と授業が被っている友達に頭を下げに行かなければならないのだ。
中間テストは既に終わっていたのでそれほど重要な授業がある風には思えない。が、そういう軽く見積っている時に限って何かとり返しのつかない事が起こるのは、この二十年間生きてきて学んできた貴重な事柄だった。
(旅行するって明確に決まったの1週間前だからな…友達が寮から引っ越したからいつか遊びに来いとは言われたけど、まさか文化の日あたり暇ならとっとと来いと言われるとは…相変わらず強引過ぎる…)
まあ応じる僕も僕なのだが。
今年宮城から山口に転勤した友達は出会った中学時代から結構我が強く、昔から1度決めたらテコでも動かない。大人しく従っておいた方が得策だろう。
二限が終わり、ぞろぞろと食堂に集まってきた友達連中に「お願い!なんか博多みやげ買ってくるから!」とズル休み分のプリントを貰ってきてくれるよう頼み込み、「いきなり旅行行くとかこれだからヤバちゃん(僕の渾名)は」と、やれお前は酒癖が悪いだの笑い声がデカすぎるだのあーだこーだと普段から溜まってたのであろう文句が矢継ぎ早に飛び交う。
「いや悪かったってマジで反省してるからお願い、ほんと一生のお願いだから」
「ほんとかよ笑笑」
結果交渉はかなり難航したが、一応彼らを買収する事に成功。
ふん、しめたものだ。こうなってしまえばもうきさまらなんぞに用はない。早くここを出よう。
…内心そんな事を思っていたが結局バカ話を続けていたらなんだか楽しくなってしまい、いつものように談笑しながら食堂名物特盛カレーを平らげてしまった。
そうしているといつの間にか三限の予鈴が鳴り響いた。
僕は各々の教室に向かう友人連中に「それじゃ、また」と別れを告げ、軽く急ぎながら上野から成田エクスプレスで成田空港に向かった。
どうでもいいけど成田エクスプレス〜空港間の車窓眺めるの、旅のはじまりって感じがして凄くワクワクする。
16時頃、成田に到着。
普段遠出する際は深夜バスや在来線を使うのだが、今回は空路を用いる事にした。
正直キングオブ深夜バスでお馴染みのはかた号に乗って某番組よろしくケツの肉が取れる夢を体感するのもアリかなと思いちょっと調べてみもした。
しかし悲しいことに現在のはかた号は
「3列!個室!プレミアシート!」
…と親切丁寧を売りにした文字通り深夜バス界のドンへと進化を遂げたらしく、並びにお値段も2万円〜。
これなら片道2時間で成田〜福岡間 1万円弱で乗れるLCCの方が金銭的にも時間的にも非常に有効だったのである。
が、別の問題があった。
(嫌やなぁ…)
悲しいかな、僕は高所恐怖症だった。
一度決心すれば何とかなるジェットコースターやバンジージャンプの類いはともかく、観覧車やランドマークタワーなんかの地に足のつかない所で長時間拘束されてしまうと身体の震えが止まらなくなる。
また飛行機に乗ること自体別に初めてではなかったのだが、離陸時や乱気流突入時特有のマイナスGが身体にかかった瞬間、脳裏に
の1文字が過ぎる。
特に臓器が下から上へ浮きあがってくる独特の感覚がもう気が狂うほど不快なのだ。
高所恐怖症の方なら分かってくれるだろうか?
とりあえず心を落ち着かせる為待合室近くの喫煙所で懐から煙草を取り出し火をつけ、少しでも気を紛らわそうと飛行機事故の発生確率をスマホで調べてみた。
事故発生確率はおよそ0.0009%。
これは宝くじで1等が出る確率より遥かに低いらしい。
が、正直そんな事実なぞ知ったこっちゃない。
(うるせぇ知らねぇ〜0.0009%だろーが何だろーが起きる時は起きるし機内で爆発起きたら100%おれは死ぬんだろーがよぉ〜…)
結局5部のギアッチョみたいな悪態を着きたくなっただけで、なんの気休めにもならなかった。
喫煙所の中でうじうじしていたらいつの間にか招集の時間になってしまったので、いつの間にかフィルターギリギリまで燃焼していた煙草をぐりぐりと灰皿に押し付け、喫煙所から抜け出した。
まあ福岡までたった2時間の辛抱…頑張ろう。
今見返しても本当によくわからない。
マジで全然理解不能なのだが、落ち着いて聞いて欲しい。
僕は機内でエンジンが吹かされた瞬間
民間シャトルを打ち上げるべく敵新型機のアッシマーに立ち向かったロベルト中尉の行動をひたすら賞賛するだけの文章をメモ帳に残していた。
↑(ロベルト中尉。機動戦士Zガンダム序盤に登場する味方キャラ。)
…意味不明過ぎるんだがどうした????マジどうしたの去年の俺???????
…おそらく当時の心理状態を鑑みるに、ロベルトが身体を張って守ってくれたシャトルに俺は今乗り込んでいる→だから死ぬ訳にはいかない!と思い込もうとしていた様だ。
…彼の同僚のアポリー中尉にでもなったつもりなのだろうか?最早ただの精神異常者であるが、もう形振り構ってられない。
「まもなく、当機は離陸致します。安全の為もう一度シートベルトを…」
きた…ッ!
(行ってくるよロベルト…お前が身体張って守ってくれたこのシャトルでよ…!)
エンジンがごうごうとより一層うねりを上げ、滑走路を走り、ふわり大地が陸から離れていく感覚に見舞われた。僕はもう気が狂いそうになりつつも残された理性を総動員し、必死で目の前に付いていたバーをこれでもかと全力で握り締め、足を踏ん張り、
「ここは大地!ここは大地!」
と心の中でひたすら唱えまくった。
それが功を奏したのかはわからないが、気が付けば飛行機はいつの間にか福岡空港に着陸していた。
隣の知的なお姉さんがこちらを見て微かに笑っていたような気がするけど、こればっかりはしょうがない。
15分毎男梅になる奴が隣に居るんだから。
気持ち悪がられるより、遥かにマシ。
19時頃 ロベルト中尉決死の行動により、無事福岡空港に到着。
常人の思考なら260円払って電車で辿り着くのがセオリー。だが飛行機内で溜まった鬱憤晴らしも含め、何となく夜の博多を散策してみたい気分だったので、普通に電車に乗るのが勿体無く思えたのだ。
僅かな孤独感と莫大な好奇心を両肩に背負い込み、そのまま福岡空港を後にする。
20時 博多駅〜中洲周辺
福岡空港から西方へ30分ほどフラフラしていると、御笠川という博多の街を縦断する川にたどり着く。
「白村江の戦いで大敗を喫した翌年、大宰府侵攻の防衛策である「水城」を建築するにあたり御笠川から水を引いた」記録が残っているらしく、古くから歴史ある川だったのである。(川沿いに埋まっていた看板情報。)
(地方に行ったらこういう看板読むのもまた一興だよな…)
眼前に続く一際煌めくカラフルな光源に見蕩れ、僕はまるでコンビニの電灯に集う汚い羽虫みたく市街の中心部へと誘われるのだった。
さて、肝心の中洲川端である。
西日本最大の歓楽街と聞いてはいたが、予想を遥かに上回る賑やかさに僕はすっかり面食らって萎縮してしまった。(時期もハロウィンに被っていたのが悪かったかもしれない)
なにせ道を歩けば鬼龍院、声をかけるは喜矢武豊。この街の人々の浮かれっぷりは正しく紅白歌合戦の樽美酒のテンションそのものであった。
(夜〜深夜にかけてホントにこんな人たちしか居なかった。
多少大袈裟かもしれないが。)
こ…こげに賑わっちょる町なんてオラさ始めて来ただに(謎方言)
西日本最大級の歓楽街と聞いてはいたが、予想を遥かに上回る街中の華やかさに片田舎陰キャボーイはすっかり萎縮してしまい、(あわよくば雰囲気のいいバーで独りアル中カラカラ…)と欲張っていた気持ちは憐れ水泡と消え、ただ1人、宿の場所を血ナマコで探し回っていた。
土地勘が皆無なせいか?Googleマップの位置認識機能がバグっているせいか?元より僕が方向音痴なせいか?
哀しい事におそらく全問正解なのだろう。
こういう時に限って全くそれらしき宿泊施設が見つからない。
「お兄さんキャバ如何っすかー?」
「いい娘揃ってますよー?」
僕は散々引っ付いてくるキャッチにもう心底ウンザリし、「キャバクラ?興味無いね」といったオーラを頑張って出してみる。
しかしこれが悪手だった。
単なる反抗して来ない陰キャだと舐められたのかキャッチが通常より遥かに図に乗り始め、ますます鬱陶しくなってしまった。
それならこの街に慣れてますよ感を出せば向こうも寄り付かないのでは?逆転裁判を全作品クリアして来た男ならではの逆転イマジネーションである。
幸いこの街には体感5m周期でタワー型の灰皿が各所に設置されており、左手に煙草、右手にブラックコーヒーを装備し、ちょっとダルそーにふらふらその場で揺れるというおれナレちゃってますよオーラ(featクソデカバックパック)
を最大限に醸し出し、出来る限りこのネオン街に溶け込もう、馴染もうと必死で努力した。
…もうその考えに至ってしまう時点で悲しくなるくらいINKKYA OF THE YEAR大賞作品なのだが、傍から見ればコミケ帰りサイズのリュックを背負ったクソナードが灰皿近くで意味もなく揺れているだけなのだが気持ち的にはちょっとだけ楽になれた。
また、その後何故かキャッチが全く寄り付かなくなったので結果オーライである。
…オーライか?????
21時過ぎ ホテル着
ようやくホテルに到着。自身の方向音痴っぷりに頭を抱えたが正直これは無理もないと思う。なんせホテルは複合商業施設の地下に存在したのだから。
(地上に目印ないんじゃ見つからんわけだよな…)
はぁ〜と安堵と疲労の溜息を吐き、そのまま商業施設の階段を降りる。下っていくと確かにホテルっぽい看板を発見し、少し安堵する。
ただ…
ただ一つ気になることといえば、このホテルのすぐ真隣になんとあのゴールドジムがバリバリ営業中で、どう見てもバキの愚地克巳にしか見えないガチムチ達が
└( 'Д')┘「ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙」
└( 'Д')┘ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙
└( 'Д')┘└( 'Д')┘「「ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙」」
とベンチプレスで大きな叫び声を上げていた。
(カプセルとはいえ普通ホテルの横にジム作るかな…?)
と一瞬頭をよぎったが、直ぐに頭の中から消去した。
多分この街は常識が通用しないのだろう。
多分中洲川端はそういう街なのだろう、と自分に言い聞かせて。
さて、こちらが今夜お世話になるカプセルホテル
ナインアワーズ中洲川端店である。(https://ninehours.co.jp/nakasukawabata-station)
外観はパッと見オシャレで無骨な隠れ家カフェにしか見えないし、なんならスーツ姿の男性2,3人がフロントのロビーのデスクでコーヒーを飲みながらパソコンを弄っている。
…ほんとにここ、カプセルホテルだよな?
自分の中のカプセルホテル像と全くマッチせず不思議な気持ちになったが、とりあえず薄暗い照明が照らすフロントへと足を運ぶ。
フロントで宿代1500円を支払い(ド平日、事前に予約済、立地が特殊といった点を考慮…しても驚愕の値段設定。)
スタッフから館内着、簡易スリッパ、タオル等の宿泊に必須のアメニティが詰め込まれたメッシュの手提げとカードキーを渡され、中洲を象徴しているかの様な漆黒のドアを解錠。微かに香る新築特有の匂いに胸を馳せる。
扉を開くとモノクロを基調としたシック&シティといったロッカールームが広がっていた。
ひとまずロッカーで重かった荷物をよっこいしょとブチ込み、財布から2000円とスマホ、タバコ&ライターを取り出し、上着のポケットにねじ込む。
重い荷物から開放されると、何となく気分まで軽くなったような気がした。
(さて、どうしようか…)
正直このまま夕食を食べに行っても良かったのだが、ホテル内の先進的でオシャンなデザインに興味を惹かれ、とりあえず今日泊まる寝床がどんなもんだろう?とそのままロッカールームを抜け、客室ルームへと足を運んだ。
そして、期待に胸を膨らませていた僕を待ち受けたのは、
マル・デ・宇宙船だった。
いや、宇宙船ソ・ノモノだった。
(こ、これは…!)
近代美術はともかく、建築美装については1ミリたりとも知識を持ち合わせていないので詳しい事はなんとも言えない。
が、暗過ぎる館内にひとつひとつ煌々と輝くカプセルたちの人工的な灯りは、どう見てもアブダクション被害にあった人々の収容施設にしか思えなかった。
(中身はどうなってるんだろう?)
指定された自分用のカプセルの中に入ってみる。
Oh.…eeyan…
内部は成人男性が十分寝返りを打てるほどの広さで、寝具も清潔でふっかふか。
画像では分かり辛いが枕傍の黒いU字部分にUSBの差し込み口と照明調節メモリが付いている。カプホではお馴染みの機能ではあるが、そんな細かな部分までオシャンだったのでちょっと笑ってしまった。
よしよし。これなら事前に用意してきたご当地えっちな音声
「博多弁の彼女は耳かきもエッチも得意 ~素の彼女のご奉仕~」
とダイソーで買ってきたアイマスクさえあれば安眠は約束されたも同然だろう。
正直駅チカで寝らりゃ…と適当に1番安い所をチョイスしてたので全く期待してなかったのだが最高の形で予想を裏切られ、繁華街周辺のキャッチ共のせいで下がっていたテンションはめちゃくちゃ回復した。
You Win!
(後にエモモンガ先生からも教わった事だが、どうやらここナインアワーズは赤坂、大手町、半蔵門…と比較的煌びやかな土地に各種点在する新しいタイプのカプセルホテルらしく、「格安だが不便」といったカプホのマイナスイメージを覆す事を目標としているらしい。
なので東京観光の際には試しに泊まってみるのもお勧めである。)
さて、テンション爆上がりした所で時刻は22時過ぎ。購買のカレーがいくら大盛りとはいえ流石に歩き回ってお腹が空いたので、とりあえず近場の博多豚骨ラーメンを食べに出かけた。
22時頃 食事 買い出し 大敗北
暖暮 博多中洲店
(https://s.tabelog.com/fukuoka/A4001/A400102/40021076/)
九州ラーメン総合1位を獲得した実績にそぐわず、クセがなくまろやかな味わいの醤油とんこつラーメンでとても美味しかった。
辛味ダレが乗っかっているので個人的には一蘭っぽいなぁと感じたが、何より関東民たる僕はカウンターの上に紅しょうがが置いてある事に猛烈に感動してしまい、この後「FOOOOOOOO(↑)っぱ本場の博多とんこつはちげェよな〜〜〜!」とついスープを真っ赤にしてしまう位ぶち込んでしまった。
せっかく店主が研鑽を重ねて作りあげた1杯なのに、田舎から出てきたムシの暴挙のせいでもう元の味台無しである。
(次から気をつけよ…)
それから、食後の軽いお散歩と明日の分の飲食物の買い出しも兼ねてドン・キホーテへと向かった。
店内はハロウィン一色に飾り付けられていて
カップルらしき男女が悪魔のカチューシャを付けたりキャッキャウフフしていた。
たった1人で来店した陰キャには居心地が頗る悪い。早めに買い物済ませてホテルに戻ろう。とりあえず店内を一通りぐるっと周り、目に付いた軽食と飲料をカゴに放り込み、レジに並ぶ。
するとここで見覚えのある人が目に入った。
「あっ…」
なんと僕の前に並んでいたのは先程ホテル脇のゴールドジムでベンチプレスを上げていた集団の1人、あの愚地克巳(仮)だった。
季節はもう晩秋に入るというのに、明らかに筋肉を誇示する為に着てるようなピッチピチ黒T短パン姿の愚地克巳。
この時既に10月末の夜。晩秋と言ってもいい頃合だ。実際気温としては10度近くでそこそこ寒いはずだったのだが…
(うーん寒そうだな…でも確か筋肉量に比例して体温も上昇するんだっけ?)
としょーもないことを考えつつも、何となく気になって彼のカゴに目をやる。
想像通りと言うかなんというか、中に入っていたのは数本のチューハイと多様多種のおつまみセット、そしてコンタクトレンズの様な薄っぺらい箱が2箱。
コンドームである。
(いやまあ成人男性だし、購入するのは普通だけどさ…)
勝手に覗き込んどいて変な話だがなんとなく気まずくなり、とりあえず大学の友人達に連絡を送り、彼のお会計が済むまで時間を潰す。
…しかし。
彼のお会計がいつまでたっても終わらない。
おつまみセットプラスアルファでそんなに時間かかるものだろうか…
黄色いカゴに移された内容物を今度は慎重にサーチしてみると、なるほどカゴには賽の河原と見まごう程大量に積まれたおびただしいゴムの山が出来上がっており、どうやら僕が2箱と断定したのは乾き物の大袋の上に乗っかっていたほんの僅かな一部だったようで、レジのお姉さんはさながらライン工の様にゴムのパッケージを鷲掴みしてはカゴに入れる作業を延々反復していた。
そんな大量に消費するんならネットで買えよ、とか果たしてこの量はこいつの何日分なんだろうか、とか頭の中で言いたいことが超高速で浮かんでは消えていく。ツッコミが追いつかない。
「ありがとうございました、またのご来店をお待ちしております」
そうして彼は、何食わぬ顔で山積みのコンドームがぶち込まれたカゴを持っていった。
(何だかこの街に着いてからというもの、凄いものばっかり見ちゃうなー…)
…彼の姿に軽くめまいと雄としての尊敬を覚えつつも、とりあえず僕の分の会計を終え、朝食分のおにぎりとお茶を袋詰めしようとする。
安心したのも束の間。
更に克巳(仮)の攻撃は続く。
僕の横を異国情緒溢れるハーフっぽい(フィリピン系だろうか?)お姉さんと在りし日の倖田來未みたいなギャル2人組が通り過ぎたと思った瞬間、先に大量のゴムをレジ袋に詰め終わっていた愚地克巳の逞しい腕を愛おしそうに取り持ち、キツいパルファムを振りまきながら博多コッテリ3人衆はそのままエスカレーターを下って行った。
(ひょっとして…)
(ひょっとするとおれは…)
(試されているのか…?)
白昼夢でもみているのだろうか?
こんな嘘みたいな光景が果たしてこの世に存在していいのだろうか?
いやそもそもこんな現実味の無い話、誰が信じてくれようか?
ここではこんなのは日常茶飯事なのだろうか…?
中洲に着いてから僅か数時間の内に次々と巻き起こる四コマ漫画的リアルを上手く受け止めることが出来ず、思考回路はショート寸前。何だか真面目に考えてるこっちの方が馬鹿みたいに思えてきたのでもう考えるのをやめた。
もう。
もういいや。
これが中洲という街なのだ。
単純に僕は、この街に打ち負かされた。
それだけで纏まる話だ。
純然な異邦人たる僕は軽くげんなりしながらも、トイレの蓋が全自動でひらくウルトラナイスなミラクルディスカバリー号へと帰投したのであった。
〜次回、第二夜 修羅の国 北九州編に続く〜