音楽を聴くメガネ虫#12 Unforgettable

Nat King Cole

『Unforgettable』

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自分にとって1番馴染みある古いポップスといえばビートルズだった。その少し前を遡るとエルビス・プレスリーの壁にぶち当たるのだが、ただでさえ現代ロックがビートルズの派生系なので若干古臭さを感じてしまい、じゃあそれよりも前のオールディーズはどうなんだとなると、何となく地方局が深夜帯にやってる世界の名盤とかの通信販売で流れる様な、どことなくもっさりしてる曲が多いイメージが強い印象だった。

 

が、この男は違った。

 

 

 

始まりのILoveYouだけで鳥肌が立った。

この人にとっては数秒でも人の心を掴むには充分な時間なのだろう。70年の時を経ても埋没しない唯一無二の圧倒的な才能に身を震わせる他無かった。

それにしても、なんて優しい歌声なのか。きっと慈愛に満ちた人だったのだろう。歌声だけでもそれが伝わって来る。

『Portrait Of Jennie』は特にそれが顕著で、不穏気なバイオリンのイントロから始まるこの曲でのコールの深く優しい歌声は安心感にも似た何かを感じ、おばけが怖くて父親の懐に飛び込んだ幼少期の頃のあの温もりを思い出す。

 

父といえば、コールは65年に45歳の若さで亡くなっているものの、その後91年に歌手デビューした実娘のナタリー・コールが表題曲『Unforgettable』をオーヴァーダビングし、バーチャル下での親子共演を果たしたカバー曲がグラミー賞に輝いている。

原曲の恋人を想うラブソング…

乱暴に言えばシンプルなノロケという意味合いが強かった従来に対し、今は亡き父とのデュエットというパフォーマンス下では、

歌詞中の、

 

And forever more, that's how you'll stay

(これからもずっと、貴方は私のそばに居る)

 

等の部分が全く別の意味合いに変化する面白さが堪らなく良い。

 

また、王道のジャズテイストに曇りながらも艶のあるボーカルワークが心地良い『What'll I Do?』『Lost April』、ディズニーなんかで流れてそうな雄大でコミカルなミュージカル調の『Hajii Baba』等聴き応えも多い。

 

 

 

人間に産まれてきてよかった、

自分にこれを好きになれる感性があって良かったと本気で思えるような、そんなベスト盤でした。