こだわりメガネの介護士生活 一ヶ月目

 

※人物名は全てフィクションです。

 

0週目

 

面接が終わると、直ぐに内定通知を渡された。

介護業界。

技術職だった僕がまさかこんな所に辿り着くなんて、10年前は想像もつかなかっただろう。

確かに常に人手は不足してそうな業界だし、喋りや経歴を評価されたのは嬉しいが、やっぱりこれには面食らった。個人的に面接はそこまで苦手ではなかったが、「真面目過ぎて君といると堅苦しくなる」という何とも言えない評価を頂き何社かは落とされた過去がある。

嬉しさ半分不安半分の微妙な気持ちだったのが本音だが、施設の条件や雰囲気はそう悪いものではない。帰路の途中、僕はそこに籍を置く覚悟を整えた。

 

1週目

 

新館が出来る為か、3月入社の人間は僕を含め相当な人数が居るらしい。現に通された会議室では既に3人緊張した面持ちで席に座っている。僕も緊張のあまり変な風になりかけだったのだが、その前にご主人よりも服の方がおかしくなった。

チャックが変に噛み合って全然ダウンが脱げないのである。

焦りに焦った僕はもうこの上着を力ずくで破壊しようか迷ったが、結構着回して便利だった服をこんな所で失う訳には行かない。平条を装い僕はゴソゴソと格闘を始めた。30分前に着いたのが功を奏し、結局オリエンテーションが始まる2分前には何とか脱ぐ事に成功した。

何の話だ。

 

その後僕が担当するのは上階のユニットだと命じられ、担当者が来るまでそこで待ってくれと部屋に向かう。パスコードを打ち、扉を開けると教室2コ分程の広さの空間に10人の入居者のお爺さんお婆さんが壁に備え付けられたテレビを眺めていた。緊張しながらその辺をウロウロしてると新人さん?と声をかけられた。

3~40代位の職員さんだろうか、薄桃色の制服を身にまとったお姉様に尋ねられる。話していくとこの人が僕のOJTの担当者でこのユニットのリーダー的存在だというのが分かった。

まずは未経験だし焦ることはないから、とりあえずこの週は入居者の名前を覚えていけば大丈夫との事だったので、一先ず人の良さそうな顔のした可愛いお婆さんに声をかけてみる事にしたが、僕はここで少し迷った。

敬語って使うべきなんだろうか。

当然一般社会だと目上の人には使うに越したことはない。ただ他の職員を見てみると砕けた喋り方を通しているし、ずっとここで生活している人に対して変に敬語を使って壁を作っている感を出すのも良くないかなと思い、僕はあえて自己紹介以外の雑談を砕けた口調で喋ってみる事にした。

どこ出身なんですか?好きな食べ物はなんですか?etc.....

元々人と喋るのも好きだし、声量もかなりデカい体質。更には人から「優しいというか流されているのでは」疑惑を持たれる僕にとってお年寄りと接することは何ら苦では無い。御歳92歳のオコメさんと穏やかに仲良く喋っている内に、やっぱり思った通り向いている仕事なのではと実感出来た。

 

その後、先程のOJTリーダーのコガネさんとドラクエ一行の様に後ろについて行って軽く業務内容の流れを学び、定時になった瞬間にほら終わったから帰るよ〜と促され初日が終わった。身体的にはそこまで辛くなさそうだし、これなら何とかなりそうだ。

早いとこ慣れて皆のお役に立たなくちゃ。

 

 

2週目

 

便の介助は苦手か? 

と先輩達によく尋ねられる。

自分としては元々犬の世話をしているので特に何とも思ってないし、この業界に入る上で覚悟は出来てますという事を伝えると、先輩たちは安堵した様にそっか〜!良かった〜!と繰り返す。やはりそこがこの業界を辞めるトップクラスの理由なのだろう。

手慣れた様子でう○こで汚れたちん○んやケツ穴を洗浄してオムツを変える先輩を見学しながらそう思った。

ただ僕も全く得意という訳では無い。ナースがケツ穴に指を突っ込んで下痢便を只管出させる業務があるのだが、この温泉のようにコポコポ湧きいでるものを見るのは流石に堪えてしまった。

が、入居者さんも好きでこんな事されている訳じゃないはずだ。本当だったら今頃ご家族と幸せに暮らしている所。それが困難になってしまったから先輩たちの様に日常のqolを少しでも上げられる様に手伝うお仕事がある。僕はそこに崇高さを見出したのだ。だからこの程度で心が折れる訳は無かった。

困っている人を救いたい。

綺麗事かもしれないけど、それが僕の原動力だ。

 

 

その職種がどれだけ辛いかは喫煙所を見ればわかる。タバコの本数が多ければ多い程精神的苦痛が大きいのだ。

さて、介護業界はというと...想像通り、めちゃくちゃに本数が多い。僕が所属しているユニットにも凡そ7割方は吸っているので、休憩中は付き合いがてら連れて行かれることが多い。タバコミュニケーションとは陳腐だが、こういう所でも職員同士の愚痴や悩み事などが聞けるいいチャンスだ。今日も一緒に来た男性社員の月島さんは良く僕の面倒を優しく見守ってくれるし、話の引き出しがスポーツからサブカルまでネタが広いので聴いていて楽しい。イメージ的には尊敬しているマリくんとエモさんを足して割ったような感じだろうか。

「メガネくんはなんでこの業界に来たの?まだ若いしやれる事は沢山あったんじゃない?」

「昔父方のじいちゃんが末期がんと認知症になった時、僕や介護士やってた母親が頑張って面倒見てたんですけど...それ以外の人間が何もやらずに酒ばっか飲んでるのが凄く腹が立って...苦しんでるじいちゃんに何も出来なかったのが本当に辛くて、それで」

「そっか、優しいんだね...でもその優しさがアダになる時もあるし、無理せず自分を守って、それでいて貫き通すんだよ」

 

その時の会話はそれで終わった。

僕がこの言葉の本当の意味を知るには、まだ日数が足りないのだろう。

 

 

3週目

 

入居者の方が裂傷を起こした。

左足の皮が焼いたウインナーの様にパックリ割れていて、表皮は疎か中のピンク色の肉まで見えている。明け方暴れた時に転んでそうなったのだと夜勤の方から申し送りを頂いた。

日中、ナースと一緒に処置が行われた。テープで残った皮と皮を繋ぎ止める作業。僕と先輩の大林さんは暴れる体を抑える役割だった。

「痛いよぅ!痛いよぅ!」と暴れ回る入居者の新井さんの上半身を必死で食い止める。その右側を覗き込むと、10平方センチメートル程の血まみれになった足を丁寧に、冷静に消毒するナースさん。日曜日だから今日はドクターを呼ぶ事は出来ない。地道な作業だった。

新井さんの顔はその内涙にまみれて

「殺してくれ!殺してくれ!」

と苦悶の表情に変わっていく。僕はただ「ごめんね、痛いよね。ごめんね...ごめんね...」と力で抑え込むしか出来なかった。(力一杯抑えると今度は腕が内出血に繋がるので力加減が難しい作業だった。)

またしてもこれか。僕は何も出来ないのか。

祖父が死んだ時の無力感に苛まれる。

凡そ1時間弱だろうか、応急処置が終わり血塗れのシーツを交換し汚物室まで持っていった時、男性職員のシマムラ先輩に声をかけられた。

「辛くはなかった?」

「はい...結構こういう事ってあったりするんですか」

「日常茶飯事...とまでは行かないけどそうですね。元々認知症の方たちなので夜は帰りたいと暴れる人たちがこうして怪我をされるパターンが割かしあったりします。」

「そういう物ですか...」

「思っているより御年寄ってすぐ怪我や病気にかかってしまうんです。僕らが出来ることはそう多くは無いですけど、例えば移乗する際だったり日常生活であったり、入居者さんたちが辛い思いを極力させない様に見守っていくのもまた、重要な役割なんですよ」

 

事前に取った資格やテキストで学習してきた事は多々ある。しかし、教本だけで全てが分かる訳では無い。

僕はここで、介護という道の険しさを改めて知る事になった。

 

 

 

音楽を聴くメガネ虫#16 The Low End Theory

 

A TRIBE CALLED QUEST 

『The Low End Theory』


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ブラックミュージックが好きだ。

EarthWind&Fireの様な煌びやかなパーティサウンドも悪くないが、ブンブン唸るウッドベースとカラカラに乾ききったスネアが脳に響き渡る物なら尚更良い。

今回はそんな大人の魅力溢れるジャズトラックを最大限に使いこなしたHIPHOPアルバムの魅力を記述していく事にする。

 

今作のアーティストA Tribe Called Questは主に90年代に活躍したHIPHOPグループで、De La Soul、Jungle Brothersに並ぶネイティブ・タンズと呼ばれる集団に位置付けられる。

これがどういうものか簡単に説明すると、一般的なラッパーのイメージである金・暴力・女……いかつい成金的思想を廃し、ただ仲の良い馴染み同士で楽曲を作るという物凄く平和な集団。(こだめがはここからHIPHOPに入ったので逆にギャングスタ・ラップが聴けないジレンマに陥っている)

 

ので、自然と楽曲も

 

このように落ち着いた楽曲が多くなる。

2pacノトーリアスBIGらの精神は現在シーンで主流のクラブミュージックに受け継がれ、ネイティブ・タンの精神はチル系HIPHOPに受け継がれるという訳だ。

 

 

アルバムの話に戻ろう。

表題である「The Low End Theory 」は彼らの作品の中では特にジャズ色が強く、これは外部から呼んだジャズベーシストの影響が色濃く出ているからだろう。

その意味は1曲目Excursionsから嫌という程分かる。

イントロからエロさ漂うウッドベースのリフフレーズに上擦った声が響き渡り、次曲Buggin'outは彼らの最高傑作と呼んでもいい程の出来で2人のMCの凄みをとことん味わえる。ガンガン響く重低音から始まるPhifeの捲し立てる様なスタイル、Qーtipのマイクチェックから始まるねっとりとした低めの思想家といった相反するヴァースが対立し合い、彼らのスタイルウォーズは極上のセッション。

 

また、何よりも紹介したいのが「Jazz (We've Got) 」

ゆっくりとした旋律の上をシームレスに遊び回る2人のmcのテクニックは言わずもがな、そして何よりも音抜きのクールさ。特に3;05の「underline,TheJAZZ」から1拍置いてスネアが入る部分が気持ち良すぎて毎回ここで頭を振ってしまう。

 

QーtipとPhifeという幼少の頃から息を合わせてきた2人のMCの妙技は是非とも聴いて頂きたい。特に待ち合わせの喫茶店、通勤電車で微睡んでいる最中垂れ流すだけで時間が吹っ飛んでしまう。

HIPHOPに興味のない方、興味はあるけど何から聞いていいか分からない方にお勧めです。

 

 

 

 

副作用は怖いねって話

 


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⚠️該当薬品は既に販売中止である事、また当人は非医療従事者であり、下記の記録は正確な情報では無い事を先述させて頂きます。

 

お疲れ様です。

こだわりメガネです。

今年も早い所3月です。最近仲のいい親戚に子供が産まれ、気付いたら御祝儀を上げる立場になりました。0歳児ってお年玉上げるべきなんですかね?

 

そんな話はともかく、皆様お身体の方はお変わりありませんでしょうか。僕は去年の年末インフルエンザが治った後即座に胃腸炎になり、地獄のような厄年となりました。身体が悪寒で震えて身体がだるくなる、後々高熱出す風邪特有の「奴」が「クる」感じが殆ど無かったので油断してました..そりゃこんな寒かったり暑かったりと気温差激しかったら風邪くらい引くわな…

 

ただでさえ何かと多忙でストレスを抱え込みがちなこの季節、どうか皆さんも自己愛を丸々と太らせてナデナデして上げてください。

 

 

さて、ここから本題に入るのですが、皆さんは薬の副作用に困った事はあるでしょうか。例えば今なら花粉の薬で眠くなったり、抗精神系のお薬は太りやすくなったりと様々な物があるそうです。ただそういうメインな副作用は必ず薬剤師さんから説明を受けるもので、飲むにしても身構えて服薬する事ができますよね。

しかしここにいる一匹のか弱いムシは10年間、とある副作用に全く気づかず生活を続け、その結果服薬中全ての音が半音下がって聴こえる不思議な体験をしました。

ここに彼の昔の投薬の記録を綴ります。

 

 

 

 

①異変に気付いたタイミング

小学生の時、祖父の家に泊まった時に熱を出してしまった。病院で薬を貰い、おばーちゃんに布団を出してもらってゴロゴロしながら(髪乾かすのサボったからかなぁ)とか内省するが、折角の長期休暇なのにずっと病床に伏っているのも面白くない。僕はそろそろゼロの島でもクリアするかとポケダンの入ったDSを取り出し、いつも通り支度をしにトレジャータウンへと下った時、異変に気がついた。

 

なんかBGMおかしいぞ…?

明確に曲の何がおかしいとは分からない。

ただとてつもなく大きな違和感がある。

>○○<「ママ…この曲なんかおかしくない?DS壊れたかな?」

母「別に何ともないけど…鼻詰まりでしょ」

そもそも未プレイの人間に曲の異変など尋ねても何の効果も得られない事は理解していた。

ただ楽器も習った事もなければ音楽自体全く興味が無い当時、この違和感を言語化するのが小学生にとってどれだけ酷だったかは分かって欲しい。

その後、どうにも釈然としなかった僕は頭の中に残っているメロディを鼻歌で歌いながら今聞こえているメロディの音程を確かめてみる事にした。

歌ってみると、なんかピッタリ音程が下にズレるのである。

そこから違和感は確信に変わる。

朝ご飯の時に流してたズームインのテーマ曲も、それまで格好良いと欠かさず聴いていた大河ドラマ天地人」のメインテーマも気味が悪いものに早変わり。更には家のインターホン、セミの声、甲子園のサイレン。普段何とも思わなかった音たちが全て全く新しい音としてリニューアルされる。なんだが得体の知れないゾンビになって一斉に襲いかかってきた様な気分で、本当に気が狂いそうだった。

 

②再び病院へ

流石に気味が悪くなった僕は親に頼み込み、もう一度病院に連れて行って貰う事にした。

>○○<「実は音が変な風に聞こえて……」

お医者さん「鼻詰まりですかね」

>○○<「あっそっかぁ(納得)」

 

診察はこれで終わり。

 

確かにどう考えても鼻が詰まって音が曇って聞こえてるだけだろう。しかし、別に鼻も詰まって無ければ音もクリアに聴こえるのだ。

そういう風に伝えていれば10年間悩まずに済んだのかもしれないが、当時は10歳前後のショタメガネ。大人の言うことは全て正しいと信じてしまい、そのまま薬を飲みながら寝る事にした。

時計のアラームは未だ歪んでいる。

 

 

③原因判明

その後咳止め薬フラベリックくんは風邪を引いたら咳止め薬として毎度のように処方され、僕はすっかり「風邪を引いたら音が半音下がるもの」と認識してしまっていた。

そしてそのまま歳を重ね、大学生になったある日の夕方、共にサイゼで飯を食っていた薬学部の友達に「風邪引いた時って音が下がって聴こえるよね」と話した所、結局あの時のお医者さんの様な事を言われた。だがどうにも納得がいかなかった自分はジタバタと昔お医者さんに言えなかった情報を告げた。「音はクリアに聴こえる」「そもそも鼻など詰まってない」「薬はずっと同じ物を飲んでいる」と……

すると彼が気になる事をポツリと話してくれた。

大好きな声優の小松未可子さんが副作用としてお前と似たような事を仰っている、そしてその薬の名前は「フラベリック」だと……

 

フラベリック

この薬の作用と効果について
咳中枢や肺、気管支などに作用し、咳を抑えます。
通常、かぜ、気管支炎などにともなう咳症状の改善に用いられます。

この薬を使ったあと気をつけていただくこと(副作用)
副作用として、口内乾燥、眠気、腹痛、発疹、聴覚異常(音感の変化など)などが報告されています。このような症状に気づいたら、担当の医師または薬剤師に相談してください。 

くすりのしおり : 患者向け情報

 


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僕の長きに渡る苦しみの原因は、声ヲタの友達によって漸く判明した。

 

 

④〜まとめ〜

聞き慣れた音が一斉に変化する不気味さも怖いが、何よりお薬の怖い所は飲んでみなければ自分に何が起きているのか分からない事。

 

音感が狂ったのがこの錠剤のせいだと分かった今でも、高熱を出したり風邪を引く度に「またおかしく聴こえるんじゃないか」と不安で仕方ない気持ちは未だに残っている。「どんな薬にも副作用がある」というのは何となく知ってはいたものの、実際に学ぶ事が出来た今、必ずどんなお薬でも薬剤師さんに副作用でどのような効果が発生しやすいかをしっかり聴くことにしている。

それが自分の身を守る事に繋がるだろうから。

 

 

〜オチがない〜

 

 

 

 

2023年ベスト10〜1位

10位

A$AP Rocky 

D.M.B

70's風サイケデリックでフラットなビートに乗せる、サディスティックな男の純真な恋心のリリック。

PVが(リアルの)彼女に結婚を申し込む為に撮られた作品で、その後彼女もそれに対して了承する……という後日談も含めて大好き。

 

9位

Aaron May

No Recognition

ディープで遊び心たっぷりのフュージョンジャズとAaron  Mayの声が合わさって兎に角エロい。この曲に取り憑かれて以来、何処へ出かける時も必ずこれを聞いてから一日を始めないと気が済まなかった。

 

8位

KIRINJ

rainy runway

ここ最近恐竜的進化を遂げてきたKIRINJIだが、この楽曲ではいつものしっとりしたメロディがフューチャーされている。が、流行の短めのイントロに「新しいものを身にまとって、新しい髪色を試してみよう」と常に新鮮さを求める貪欲な音楽的姿勢がこれでもかと現れている。

 

7位

Sum41

Open Your Eyes

ギター、ベース、ドラム……結局自分はパートで何が好きなのか?この問いの答えは毎年になってコロコロ変わるけど、この曲のハイハット鬼連打でやっぱりドラムなのかなぁ……と思わせてくれた1曲。

Chuckは何時聞いても名盤。

 

6位

深世海

Trench-Jewelry Box-

温かみのあるリフとリバーブがかった音作りにより深海特有の得体の知れぬ心理的恐怖感と全てを内包してくれるような包容感が過不足なく再現されていて、サントラなのにも関わらず自分の中の深海のイメージを代弁してくれるかの様だった。

 

5位

Flying Lotus/thunder cat

Black Gold

耽美なメロディラインとゴツゴツしたビートというthundercat節溢れる作品だが、気付けばサルの様にリズムを取らされ大サビの盛り上がりで毎回胸を打たれる。

 

4位 

Doobie Brothers

What a Fool Believes

前期の方が乾いた空気が好みとか抜かしておきながら聞き直した結果後期作に気を取られた情けない男です。柔和なグルーヴに黄金色のコーラスが輝くスタンダードナンバーには誰にも勝てんのです。

 

 

 

3位

joji

Die for you

歌詞を見る限りなんてことは無い失恋ソングだが、彼の消え入りそうな繊細なボーカルワークをエンジニアリングで引き出し、極限まで最小限の音から最大限の世界観を作り上げている極上のシューゲイザー

昔チャートで謎の日本人(joji)が世界1位になったと聞いて軽んじていたが、彼の世界観に完全にコテンパンにされた。

 

 

 

 

2位

OMSB 

大衆

リリックの表現が私小説を通り越してコミックエッセイ。黒帯の様にゴリゴリの後ろ乗りラップも魅力だがある種ブッディズム的な心理への迫り方というか、こういうのを書いてきたら右に出る物はいない。

 

 

 

1位

スキマスイッチ

フォークで恋して

各パートの魅力を余す所なく引き出す至福のセッション。それでいて「同僚を昼飯に誘う」だけの四畳半的ストーリーを乗っけてきちゃうこの心の余裕。パーティ疲れのチル系ソングは片手間で幾らでも見つけられるが、この絶妙なヌけ感はどこ探したってこの曲だけ。

最高のAORです。

 

 

 

 

〜2024年編に続く〜

 

2023年ベスト曲 20〜11位

えっ今更!?

 

20位

ジャンクフジヤマ

あれはたしかセプテンバー

童貞の走馬灯の様に清らかな歌詞とメロディラインに加え、サビメロの地声からファルセットに変化する自然な歌声が兎に角美しい。ジェネリック山下達郎のレッテルを貼られ続けて評価されてないのが本当に勿体ない。

 

 

 

 

19位

androp

Neo Tokio Stranger feat. Pecori,Tondenhey&Kyoichi Mikuriya

去年のビバラで1番印象に残った曲。完全ノーマークだったけど静と動のメリハリ、セッション風のやり取りが心地良い。内澤のボーカルワークが若々し過ぎるせいかアングラ感満載のラップの応酬から絶妙に浮いているのもポイント。

 

 

 

18位

句潤

夏産まれ


ミドルテンポのサマーソングにこの男が合わないわけが無い。自らのラップスキルを気だるげに、惜しむこと無く披露してくる様は最早品格すら感じる。

自分でもミーハーだなぁと思いますよ。

 

 

17位

ZOMOZ 

意外なことが次々に起こる

普遍的なドラムンベースナンバーかと思えばノリ方やコード進行などのアプローチが巡るましく変化する、ポップでいて捻りに捻りまくる実験的な楽曲。

なぜPVを作らなかった。

 

 

 

16位

塊魂

ロンリーローリングスター

親しみやすいキャッチーなリフが特徴のチップチューン。可愛らしいのにどこか切ないほろ苦い後味の塩梅が素晴らしく、「塊」という概念を恋人に見立てた歌詞作りも天才的。

 

 

 

15位

Catfish and the Bottlemen

暖かくて仄暗い懐かしさ、それでいて無邪気な若々しさも感じる配分のちょうど良さ。ブリティッシュロックの良さを極限まで吸い取り自分たちの物にしているのが伝わってくる。

 

 

 

14位

藤井風

Bメロを1オクターブ上げてそのままサビに使っちゃう発想がもう天才的過ぎる。「枯れていく」と不穏な始まり方をするのがもうらしさ満点だが、彼の優しく儚いファルセットがストレートに押し出される良曲。

 

 

 

13位

The band apart

MTZ

個人的2022年のトップだった奴。比較的大人しく入ってくるイントロから変拍子だらけの曲がりまくった道をアウトロまで冷めることなく加速していく。

好き過ぎるので未だにランキングに入ってくる。

 

 

 

12位

Gorillaz

Cracker Island

どこかで紹介したアルバムのリード曲。

thundercatの酩酊状態に近しい怪しげなビートとDemon Albarnの二日酔い状態に近しいダルダルな歌声が組み合わさって中毒性抜群。

 

 

 

11位

Little smiz

How Did You Get Here

自分の中のHIPHOPのイメージを丸ごと変えさせられた1曲。メロウでソウルフルなビートと情感溢れる高速ラップのマリアージュがここまで凄いとは…ブラックミュージックの底知れなさを怖い程思い知った。

 

 

 

 

 

続きはこちら

https://kodawarikusomegane.hatenablog.jp/entry/2024/01/29/013424

 

音楽を聴くメガネ虫#15えとらんぜ

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バンバンバザール

『えとらんぜ』

 

 

どうしても眠れなくなった時は、その日2回目の風呂に入る事にしている。

家族が寝静まったリビングを抜けて、こっそり追焚きボタンを押す。その間、自室に置いてある中学時代フリーマーケットで50円で購入した小型ラジオを風呂にセットして、それを聴きながら30分くらいぬるま湯に浸かってのんびりする……

といったストレス解消法があった。それは深夜誰かの声を聴いて安心したいといった一抹の寂しさの解消でもあるが、未知の音楽を探る為でもある。半ば引っ掛かっても掛からなくてもいい位の、そんな夜釣りの様な期待をもってぼーっとラジオを聴く事に楽しさを見出していた。

そしたら。

全く予期せぬ大物が引っかかった。

何だこの下町情緒溢れるボサノバは。めちゃくちゃ俺好みだ。慌てて洗濯機の上に置いてきたスマホを引っ張り出しSoundHound(曲聞かせると検索するやつ)を使った。ヒットしない。こうなったらもう曲を流し終わった瞬間の「お送りした曲は〜」を下りを絶対に逃してはならない。意外とアレ聴きそびれるんだよな……と、半ば陸上競技のスタートに似た謎の緊張感を持ちながらその時を待つ。

あ、フェードしてきた。

そろそろかな。

「お送りした曲は、バンバンバザールでえとらんぜでした。」

あぁ〜良かった〜……

おっさんの滑舌が良くて……

 

本作『えとらんぜ』のジャケットは一見ただの風光明媚な油絵の様に見えるのだが、実際そこに描かれているのは中洲の屋台街。

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実際彼らが現在福岡県で活動されている為このチョイスにもなったんだろうけど、ここからも分かる通り、暗がりのバーでウィスキーを傾けるよりかは少し肩の力を抜いて、居酒屋で梅キュウとホッピーを頼む中年のつかの間の回顧と言ったムードに包まれている。

1曲目『stranger』は流れた瞬間に掴まれたキャッチーだけど少し寂しさのあるリフに心惹かれる。また東京近隣の民なら最早大して感傷も湧かない「浅草」「秋葉原」「日本橋」が、これを聴きながら探索すると本当に何も知らないstrangerになったが如く街を探索出来る様になる旅情に溢れた雰囲気もまた魅力的で、このアルバムが自分のお散歩プレイリストに入っている一つの理由でもある。

キーボード、ドラム、ウォーキングベース等曲だけ聴いたらちょっとテンポの早いシンプルなジャズナンバーなんだけど、そこに円熟味のある曇ったボーカルワークが一際光る『マフラー』、「誰にも聞かれずにループしてる抜け殻ビーチサイドのラジオ」……たったこれだけで情感が伝わってくる歌詞表現が最高に好きな良バラードの『瞬夏終灯』。はっぴいえんどに通じるけだるい雰囲気を醸し出したブルース『おこりんぼう』も味があって好きだ。

 

ラジオで流れた1曲に惹かれアルバムを購入してみたが、全体通して聴くと湿り気を含んだ古き良き哀愁の風景が広がる。そんな日本で産まれ育った者にしか作れない、オリジナリティ溢れる作品だった。

音楽を聴くメガネ虫#14 Random Access Memories

Daft Punk

『Random Access Memories』

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ご存知フランス産のロボット2体組が作り上げた世界的名盤が、今年でめでたく10周年を迎えるらしい。

 

……え????

 

嘘でしょ!?????未だに俺にとっての最新のアルバムって言ったらコレなのに!?????

と思って10年前のオリコンを引っ張ってきました。

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終わってんなぁ……

 

 

 

正直、当初アルバムを聴いた印象は「地味」ではあった。が、「やさしめのthe Chemical Brothers」といった従来のイメージとは全く別。曲中、随所に感じられる「人間」としての温かみのあるメッセージに加え、より生音のグルーヴ感を高めたフュージョンジャズ的な内容に纏まっている。

ただクラブで客をノセるだけ」といった今までのニッチなクラブミュージック界の概念がこの1枚によって大きく覆されたのが名盤と呼ばれる一つの理由だろう。

その点、『Get Lucky 』が作中の中でも飛び抜けて売れたのは非常に理解出来る。

事実、古めかしいブラックミュージックのフォーマットを取り入れたBruno Marsの『24K Magic』が馬鹿みたいに売れた様に、この頃はスマホが普及し始め、若者達がより気軽に過去の名曲を探る事が可能になっていた。そんな時代にマッチした今作はPharrellを始め、業界トップクラスのミュージシャンが生み出した最先端のレトロサウンドは地味ではあるものの曲の何処から聴いても頭に残りやすく、自然とリズムを取ってしまうキャッチーな名曲。

 

ただ特にツボなのが『Instant Crush』。

「このまま友達として関係を続けるか、それとも恋愛対象として発展させるべきか」……という、内向的極まる歌詞をより昇華させるメロウな曲調の中に、TheStrokesのジュリアン・カサブランカスのメランコリックな歌声が響き渡る。知ってか知らずか、当時高校時代よくそんな感情で悩んでいた時に自然と好んで聴いていた。だからなのか、大人になった今聴くと少しくすぐったいような、懐かしいような不思議な感じがする。

 

彼らの原型を最も感じられる曲と言えば終盤の二曲位だろうか。エレクトロニックなメロディが淡々と続く無機質な『Doin' It Right 』だが、サビでは繰り返し「ベストを尽くせば必ず成し遂げられる」といった熱いメッセージが込められている。またインスト曲『Contact』はアポロ17号の船長のボイスメッセージを使用した近未来的なセッションで、実際ロケットのエネルギーが充満していく様にテンションが膨れ上がっていく。

 

また、彼らは2021年を最後に解散してしまったのだが、その際「epilogue」と題された動画に使用されたのが近未来的な賛美歌、『Touch』ので締められる。

hold on, if love is the answer, you’re home

(もし愛が答えなら、僕の帰るべき場所は君だ)

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そんな、無機質なロボットの外見からは想像も付かない程に優しく、暖かいメッセージを最後に残し。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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彼らはしめやかに爆発四散していくのであった。